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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)3605号 判決

原告 合資会社阿曾工務店

被告 大槻義雄 外六名

主文

被告義雄は、原告に対し金二六六、六六七円及び内金一六六、六六七円に対し昭和二九年一〇月一日以降完済に至るまで日歩九銭八厘の割合による金員を支払うべし。

被告義雄を除くその余の被告らは、原告に対し金五三三、三三三円及び内金三三三、三三三円に対し昭和二九年一〇月一日以降完済に至るまで日歩九銭八厘の割合による金員を支払うべし。

被告らは、原告に対し別紙目録記載の不動産につき、東京法務局昭和三一年三月三日受付第二七四七号抵当権設定仮登記の本登記手続をなすべし。

訴訟費用は、被告らの負担とする。

本判決は第一、二項に限り原告において各被告に対し金四〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二、三、四項同旨の判決並びに一、二項につき仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

一、原告は、訴外亡大槻アキに対し昭和二九年八月一〇日別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という)とその敷地五五坪の借地権を代金二、五〇〇、〇〇〇円を以て売却し、同時に原告とアキ間に(一)、代金の支払方法は、第一回分金三〇〇、〇〇〇円を借地名義書換完了のとき、第二回分金一、二〇〇、〇〇〇円を本件建物を担保にアキが信用組合から資金を借入れたとき、第三回分金五〇〇、〇〇〇円を原告が本件建物の残工事を完了したとき、第四回分金五〇〇、〇〇〇円を昭和二九年九月三〇日に分割して支払うこと、(二)アキは、右分割支払を怠つたときは、原告に対し違約金三〇〇、〇〇〇円を支払い、かつ、日歩三〇銭の遅延損害金を支払うこと、(三)、右の場合アキは原告に対して負担する残代金と違約金の合計額の債務の担保として本件建物に抵当権を設定すること、なる旨の契約を締結した。

二、しかして、アキは、右代金債務中第三回分まで合計金二、〇〇〇、〇〇〇円を支払つたが、昭和二九年九月二八日死亡し、被告義雄は、夫として、その余の被告らは子としてアキを共同相続し、アキの法律上の地位を承継した。

三、したがつて、被告らは、昭和二九年九月三〇日第四回代金五〇〇、〇〇〇円を各相続分に応じて支払うべきものであるのにこれを履行しないから、被告らは、原告に対し右残代金五〇〇、〇〇〇円とこれに対する昭和二九年九月三〇日以降完済に至るまで約定遅延損害金の率を利息制限法の範囲に引直した日歩九銭八厘の割合による遅延損害金及び違約金三〇〇、〇〇〇円を各相続分に応じて支払をなすべき義務を負担し、かつ、右債務の担保として本件建物に抵当権を設定すべき義務を負うものである。

しかるに、被告らは右義務を履行しないので、原告は、昭和三一年三月一日東京地方裁判所の仮登記仮処分命令を得て本件建物につき東京法務局麹町出張所昭和三一年三月三日受付第二七四七号を以て抵当権設定仮登記を経由した。

四、よつて、原告は、被告義雄に対し残代金五〇〇、〇〇〇円の三分の一及びこれに対する昭和二九年一〇月一日以降完済に至るまで日歩九銭八厘の割合により遅延損害金並びに違約金三〇〇、〇〇〇円の三分の一を、被告義雄を除くその余の被告らに対し残代金五〇〇、〇〇〇円の三分の二及びこれに対する昭和二九年一〇月一日以降完済に至るまで日歩九銭八厘の割合による遅延損害金並びに違約金三〇〇、〇〇〇円の三分の二の支払を、被告らに対し東京法務局麹町出張所昭和三一年三月三日受付第二七四七号による抵当権設定仮登記の本登記手続を求めるため本訴に及んだ、と述べ、被告の答弁並びに抗弁事実を否認し、

一、本件建物の売買契約が成立するに至るまでの経緯並びに契約成立当時本件建物は未完成でアキが建築主となり残工事を原告が請負つたものであることは被告らの主張する通りであるが、右売買契約には、工事完了届は建築主であるアキがこれを行う旨定められ、原告が工事完了届をなし、使用許可証を得てアキに交付するが如き定めはなかつた。

二、本件建物の売買契約をなす際、本件建物は、その建坪が四二坪で、その敷地は五五坪であつて所在地域の建ぺい率に反する違法建築物であることは当事者双方が知悉していたところである。従つて、原告がもとの建築主佐々木松美の得ていた建築物確認通知書を利して本件建物の使用許可証を得ることについてアキに協力するとのことはあつたがこのようなことは本件建物の売買契約の内容となるものではなく、法律上の義務とはいえない。

仮に、被告ら主張の如く本件建物の使用許可証を原告が得る義務が売買契約の条項となつていたとするならばこのような条項は原始的に不能であつて債務不履行の範ちうには属さないものである。

三、原告には被告ら主張の如き債務不履行はないのであるから違約金支払義務はない。従つて、被告らの相殺の抗弁は失当であると述べ、立証として、

甲第一、二号証、同第三号証の一、二及び同第四号証を提出し、証人大饗時男、同中村利弘、同小林太津治の証言を援用し、乙号各証の成立を認めると述べた。

被告ら訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、

原告主張の請求原因事実一中原告がアキに対し原告主張の日時本件建物及びその敷地五五坪の借地権を代金二、五〇〇、〇〇〇円で売却したこと、その代金支払方法が原告主張の通りであること並びに、アキが代金債務の支払を怠つたときは、原告主張の如き違約金、遅延損害金の定があり、かつ、右の場合、違約金と残代金債務及び遅延損害金債務を担保するため本件建物に抵当権を設定する旨の条項があつたことは何れも認めるが、本件建物の売買契約は、アキが昭和二九年七月「収入向アパート買度し」との新聞広告を出し、これに応じて原告が本件建物の売却方を申出たものであり、本件建物は、もとの建築主である訴外佐々木松美がアパートとして確認通知書を得てその建築を原告に請負わせていたところ、佐々木が中途で資金に窮したため原告が自力で建築中であつたもので売買契約成立当時は、畳敷込、建具建付、水道、瓦斯工事、非常階段工事等が未完成であつた。アキは、右残工事のある本件建物の所有権を取得し同時に建築主として残工事を原告に請負わせたものであるから原告は請負人として当然アキを代理して工事完了届を行つて使用許可証を得てアキに交付すべき義務を負うものであるが、右売買契約締結にあたり、原告とアキ間に原告は右義務を負担する旨の特約がなされた。

請求原因事実二は認める。

請求原因事実三中被告らが原告に対し原告主張の如く第四回分金五〇〇、〇〇〇円の代金の支払をしていないこと並びに本件建物につき原告主張の如く抵当権設定仮登記のなされたことは認めるが、被告らが原告主張の如き債務を負担するとの点は争う、と述べ、抗弁として、

一、第四回分金五〇〇、〇〇〇円の代金債務の支払期日は昭和二九年九月三〇日とあるが、その趣旨は、第三回分の支払期日が残工事完了の時であること並びに原告が残工事を完了したときは工事完了届を行つて使用許可書を得てアキに交付する義務を負つていたことに徴し、確定期限を定めたものでなく、原告が右義務を履行した時ということである。従つて、被告らの第四回分の支払義務は原告の右義務と同時履行の関係にある。しかるに原告は右義務を履行しない。そこで被告らは、原告が本件建物の使用許可書を得てこれを被告らに交付するまで被告らは第四回分金五〇〇、〇〇〇円の支払を拒絶する。

二、仮に、被告らの原告に対する第四回分金五〇〇、〇〇〇円の支払義務と原告の被告らに対する本件建物の使用許可証を交付すべき義務とが同時履行の関係にないとしても、原告は、右義務の履行をしていないのであるから債務不履行の責は原告にあるものといえる。しかして、本件建物の売買契約には、原告に債務不履行のあつた場合は原告は違約金三〇〇、〇〇〇円の支払義務があり、右違約金と残代金とは相殺されるべき旨の条項の定めがあつた。そこで被告らは本訴(昭和三三年七月九日本件口頭弁論期日)において右違約金債権を以て原告の残代金債権と対等額において相殺する旨の意思表示をした。よつて、原告の残代金五〇〇、〇〇〇円の債権は右限度において消滅したと述べ、立証として、乙第一号証、同第二号証の一乃至六、同第三号証を提出し、証人大橋正信の証言並びに被告大槻義雄本人尋問の結果を援用し、甲第四号証は不知、爾余の同号各証の成立を認めると述べた。

理由

原告は、訴外亡大槻アキに対し昭和二九年八月一〇日別紙物件目録記載の建物(本件建物)とその敷地五五坪の借地権を代金二、五〇〇、〇〇〇円で売却し、同時に原告とアキ間に(一)、右代金の支払方法は、第一回分金三〇〇、〇〇〇円を借地権の名義書替え完了のとき、第二回分金一、二〇〇、〇〇〇円を本件建物を担保にアキが信用組合から資金を借入れたとき、第三回分金五〇〇、〇〇〇円を原告が残工事を完了したとき、第四回分金五〇〇、〇〇〇円を昭和二九年九月三〇日に分割して支払うこと、(二)、アキは、右代金の分割支払を怠つたときは、原告に対し違約金三〇〇、〇〇〇円を支払い、かつ日歩三〇銭の遅延損害金を支払うこと、(三)、右の場合、アキは、原告に対し、残代金と違約金との合計額の債務の担保として本件建物につき抵当権を設定することなる旨の契約を締結したこと。アキは、右代金債務中第三回分まで合計金二、〇〇〇、〇〇〇円を支払つたが、昭和二九年九月二八日死亡し、被告義雄は、夫としてその余の被告らは子としてアキを共同相続し、アキの法律上の地位を承継したこと。被告らは、第四回分の金五〇〇、〇〇〇円の代金の支払をしていないこと。原告は、昭和三一年三月一日東京地方裁判所の仮登記仮処分命令を得て本件建物につき東京法務局麹町出張所昭和三一年三月三日受付第二七四七号を以て抵当権設定の仮登記を経由したこと。本件建物の売買契約は、アキが昭和二九年七月「収入向アパート買度し」との新聞広告を出し、これに応じて原告が本件建物の売却方を申出たものであり、本件建物は、もとの建築主である訴外佐々木松美がアパートとして建築物確認通知書を得てその建築を原告に請負わせていたところ佐々木が中途で資金に窮したため原告が自力で建築中であつたもので売買契約成立当時は、畳敷込、建具建付、水道、瓦斯工事、非常階段工事等が未完成であつたこと。アキは、右残工事のある未完成の本件建物の所有権を取得し同時に建築主として残工事を原告に請負したことは当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第二号証によれば右売買契約には原告の債務不履行についても違約金三〇〇、〇〇〇円の定めがあつたことを認めることができる。

被告らは、右売買契約には、原告において工事完了届を行い、本件建物の使用許可証を得てアキに交付すべき旨の条項があつたことを主張し、原告の右条項の不履行を前提として同時履行及び相殺の抗弁を提出しているので、まづ、原告が右の如き債務を負担するか否かを考えてみるに、

前掲甲第二号証、証人中村利弘の証言により真正に成立したものと認め得る同第四号証、成立に争いのない乙第一号証と何れも後記措信しない部分を除く証人大饗時男、同中村利弘の証言及び被告義雄本人尋問の結果を綜合すると、

本件建物の売買契約について、前記争いのない事実の他次の事実を認めることができる。

売買契約の交渉は、アキの夫である被告義雄がアキを代理して原告会社の代表者であつた阿曽直作、会計を担当していた大饗時男、阿曽の女婿である中村利弘と行つたものであるが、右契約の交渉は、昭和二九年七月二〇日頃から始まり、その頃義雄が現地について本件建物を見た際、大饗は、敷地は「隣接する佐々木松美の家屋の敷地を含めて一一五坪で、佐々木の家屋は本件建物の完成するまでに取除かれる旨を説明した、アキは、当時、本件家屋よりももう少し東京大学に近い所にアパートを買い度い気持を持つていたので買受けの承諾を渋つていたところ、同月末頃阿曽、大饗、中村の三名がアキ方を訪れ、義雄に対し、原告は、佐々木松美が本件建物を中途で投げ出したため迷惑を蒙り困つているのでいろいろの交渉に応じるから是非買受けて呉れと懇請し、佐々木松美が訴外藤勇(建築代願人)を通じて得た本件建物の確認通知書を示して本件建物の建坪は四二坪で、敷地は一一五坪七合であると説明し、アキが本件建物の代金調達のために本件建物を担保に金融機関から資金を借入れるための相談にも応じる旨約し、当事者間で本件建物と借地権を代金二、五〇〇、〇〇〇円で売買することの大体の話がまとまり、更に、同年八月四日が手附金の意味で金二〇〇、〇〇〇円を原告に支払い、前記確認通知書の交付をうけた。ところで右書面には本件家屋の建坪は四二坪で、敷地は一一五坪七合で、建坪と敷地面積の比(建ぺい率)は三九パーセントである旨の記載がなされていた。そのようなことから義雄は本件建物の敷地面積は真実に確認通知書記載の通りであると信じていた。しかし、確認通知書の敷地面積は、建築代願人藤勇によつて書面上の形式のみが整えられたものであつて、本件建物の敷地として予定されていたものは五五坪に過ぎず、隣接する佐々木松美所有家屋の敷地を入れても到底一一五培七合には達しなかつた。このようにして売買契約成立の直前である同月七日に至り阿曽、大饗は、アキ方を訪れ、義雄に対し目下のところ佐々木松美の家屋を取除くことができないから敷地は五五坪として買受けられたい。自分らは業者であるから使用許可証は自分らの手で間違いなく取り、建ぺい率のことで使用許可証がとれないような迷惑をかけることはしないと云つたので、義雄は、これを承諾し、翌八日原告が地主中本幸助と借地権の名義書換を行うから金三〇〇、〇〇〇円を原告事務所に持参されたいとの原告の申出に応じ、翌八日右金員を原告事務所に持参して原告に支払い、阿曽と地主中本幸助との間に本件建物の敷地五五坪についてアキへの名義書換えの交渉が成立した席に立会い、次いで、同月一〇日被告らの訴訟代理人大崎孝止の事務所において、同代理人及び原告訴訟代理人宮田光秀立会いの下に原告の代理人大饗及び中村とアキの代理人義雄との間に前記争いのない本件売買契約が成立した。

このように認めることができ、これに反する証拠はない。

しかして、前掲各書証及人証と証人大橋正信の証言によると、右売買契約の締結に当り、本件建物の建坪は、四二坪であるに対し、その敷地面積は、五五坪であつて所在地域の建築基準法に基く建ぺい率に違反しているものであることは当事者双方共十分の認識を持つていた、しかし、原告側は、本件建物には前段認定の如く既に敷地面積を一一五坪七合と記載した確認通知書が得てあり、佐々木松美からアキに建築主を変更するための都の建築主事に対する建築主変更届(この届出の手続は原告が行つたものである)も敷地面積は、一一五坪七合であるとして、地主中本幸助のアキに対する敷地一一五坪七合の使用承諾書が添付されて提出してあり、従来の経験からして建ぺい率が確認通知書に形式的に整つている場合には工事完了届を行えば都の建築主事の検査済証をうけることは容易にでき、従つて、消防庁の使用許可証を得ることもできるものと考えていたので、右契約締結の席上建ぺい率及び使用許可証をうける手続について話合われた際、原告側は、義雄に対し、工事完了届は、原告がこれを行い工事完了届に対する都の建築主事の検査済証をうけ、消防庁から使用許可証をうけることは全て原告の責任とする。従つて、都から現地検査に来た場合は、原告において責任を以て検査にパスするように計らい、万一不備の点がある場合には原告の責任において補正する旨約した、そこで、義雄も原告の責任において敷地五五坪のままで使用許可証をうけることが出来るものと確信した。しかるに、本件建物が建ぺい率に違反する違反建築であることが都に発覚したため、使用許可証をうけることができなくなつたものであること並びに本件建物所在地域は、住宅地域で、かつ、都市計画法に定める第八種空地地域であるため建ぺい率は四〇パーセントであることを認めることができる。被告義雄の本人尋問の結果中義雄は、売買契約当時本件建物が建ぺい率に違反するものであることを知らなかつた旨の供述があるが前掲各証人の証言に照らし措信できない。前掲甲第二号証七項には、工事完了届はアキが提出する旨の記載があり、前掲各証人の証言中これに副うものがあるが、本件売買契約の成立するに至つた経緯並びに前段認定の如く建築主変更届も原告においてこれを行つた事実に徴し、右記載は、工事完了届建築基準法上の提出義務者を注意的に記載したにとどまり前段認定のさまたげとならず、右各証人の証言も右認定を覆えすに足るものではない。また、右各証人の証言中原告は、請負人として本件建物の構造上の危険性、衛生上の不備に対し責任を負うものであるが建ぺい率の点について責任を負うものではない旨の証言があるが大饗証人のその余の証言に照らし措信できない。他に前段認定のさまたげとなる証拠はない。

以上認定によれば本件建物の売買契約には、原告において工事完了届をなし、建築許可証を得てアキに交付すべき旨の条項の定があつたものといえる。しかしながら右条項は、本件建物の敷地面積が建ぺい率に不足するものであることを秘して都の建築主事に工事完了届をなし、その検査済証を得て、更に消防庁の使用許可証を得ることを目的とするものであつたことも明らかである。そうすると右条項は、建築基準法に違反することを目的とするものであつて公序良俗に反する無効のものと云わねばならない。しからば、右の条項が有効であることを前提とする被告らの抗弁は全て理由がない。

次いで、公序良俗違反の行為を目的することにより無効である右条項が本件建物の売買契約の内容をなしていることにより右契約が有効のものとなし得るかについて考えるに、

凡そ、契約の一部に無効な条項の定めがあり、それが契約全体を無効なものとするか否かは、契約の一部無効によつて当事者が契約の目的を達し得るかどうかを基準として考えるべきものである。

本件建物は、現に建ぺい率に違反するものではあるが、周囲の敷地を売収または借入れることによつて、或いは、建坪を減ずること、若しくは、その両者を併用することによつて適法な建物とすることができる、しかして、そのために相当の負担が当事者のいづれかにかゝるものと考えられる(当事者の何れが負担するかは、本件訴で判断すべき事項ではないから別論とする)が、何れがそれを負担するとしてもそのことによつて契約の目的が達せられなくなるほどのものとは考えられない。従つて、本件建物の工事完了届を出して使用許可証をうけることを原告に強制し得ないものとなつても右は契約全体を無効とするものではないと解する。

しからば、被告らは、アキの共同相続人として、アキの原告に対する本件建物の売買契約上の義務を承継し、被告義雄は、原告に対し残代金五〇〇、〇〇〇円の三分の一である金一六六、六六七円(一〇銭の位で四捨五入)及びこれに対する右残代金の履行期の翌日である昭和二九年一〇月一日以降完済に至るまで約定遅延損害金の率を利息制限法の範囲内に引直した日歩九銭八厘の割合による遅延損害金並びに違約金三〇〇、〇〇〇円の三分の一(金一〇〇、〇〇〇円)を、被告義雄を除くその余の被告らは残代金五〇〇、〇〇〇円の三分の二である金三三三、三三三円(一〇銭の位で四捨五入)及びこれに対する昭和二九年一〇月一日以降完済に至るまで日歩九銭八厘の割合による遅延損害金並びに違約金三〇〇、〇〇〇円の三分の二(金二〇〇、〇〇〇円)の支払を、被告ら全員は、東京法務局麹町出張所昭和三一年三月三日受付第二七四七号による抵当権設定仮登記の本登記手続をなすべき義務あること明らかである。

よつて、原告の請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 西山要)

物件目録

東京都文京区原町一四七番地

家屋番号同町一四七番一一

一、木造瓦葺二階建アパート一棟

建坪 四二坪

二階 四二坪

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